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相続税

別訴課税処分取消判決に基づく株式評価額の変更は、その後の遺産分割の成立による更正の請求に波及するのかが争われた事例-東京高裁令和元年12月4日判決(平成30年(行コ)46号)(原判決変更、一部認容)(納税者勝訴)(上告受理申立て)

(1)事案の概要
 原告及び被控訴人Xは、課税処分取消判決(以下「前掲判決」という。)の確定(X勝訴)後、遺産分割が成立したとして、所轄税務署長Yに対し相続税法32条1号に基づき、相続財産の内のP社株式等の価額が前掲判決で認定された額と同額であることを前提に更正の請求をした。これに対し、Yは、P社株式等の価額は相続税申告(以下「本件申告」という。)における額と同額とすべきであるとし、更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をするとともに、Xに対し、同法35条3項に基づき、相続税の増額更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
 本件は、Xが本件更正処分におけるP社株式等の価額を不服として、その取消し等を求める事案であるが、前審の東京地裁平成30年1月24日判決(税資268号-11(順号13116))は、Xの請求を認容した。また、二審である本件においても国は敗訴した。

 ただし、最高裁・第一小法廷令和3年6月24日判決・令和2年(行ヒ)第103号において、一審・二審で敗訴していた国の主張が認められた(判決文手に入り次第、内容変更)。

○本判決に至るまでの事実等は、次のとおりである。
① 平成16年2月28日、Xの母(以下「本件被相続人」という。)が死亡したことにより相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続における共同相続人(以下「本件相続人ら」という。)は、Xを含めて計7名である。
② 平成16年12月27日、本件相続に係る相続税について、遺産分割が成立していない(未分割である)ことから相続税法55条に基づき民法の規定による相続分の割合(各7分の1)に従って財産を取得したものとして、Xは、Yに対し、課税価格(X取得分。以下同じ)を22億6,374万円余、納付すべき税額を10億7,095万円とする申告(本件申告)をした。その際、Xは、P社(規模区分は大会社)の株式保有割合が27%であることから株式保有特定会社に該当するとし,P社株式を1株当たり11,185円と評価した。
③ 平成19年2月13日、Yは、Xに対し、遺産のうち、P社株式等の価額が過少であるとして、課税価格を41億2,068万円、納付すべき税額を19億9,989万円余とする更正処分をした。その際、Yは、P社株式を1株当たり19,002円と評価した。
④ 平成23年2月28日、Yは、Xに対し、課税価格を40億6,089万円、納付すべき税額を19億7,000万円余として、更正処分の一部を取り消す減額更正処分をした。
⑤ 別訴東京地裁平成24年3月2日判決(判時2180号18頁)は、株式保有割合が25%以上であれば一律に純資産価額方式等により評価すべきことは不合理であるとしたうえで、当該課税処分を取り消した。また、控訴審の東京高裁平成25年2月28日判決(税資263号順号12157)も、原判決の結論を維持した。
⑥ 平成25年5月27日、前記東京高裁判決の後、国は上告を断念し、国税庁は株式保有特定会社に当たるか否かの判定基準となる株式保有割合を25%から50%に引き上げる旨の改正をした(改正後の評価通達189(2))。なお、Xを含む本件相続人らは、更正処分の法定の制限期間が経過していたことから、評価通達改正に伴う更正の請求をすることはできなかった。
⑦ 平成26年1月16日、P社株式等を含む本件被相続人の遺産に係る遺産分割申立事件について、東京家庭裁判所において遺産分割調停(以下「本件調停」という。)が成立した。なお、本件調停の成立により、Xは、P社株式等の7分の6を取得するに至った。
⑧ 平成26年2月21日、X以外の本件相続人らは、Yに対し、本件調停の成立を理由として、相続税法32条1号に基づく更正の請求をした。平成26年6月20日、Yは、更正の請求に基づき減額更正処分をした。
⑨ 平成26年5月16日、Xは、Yに対し、本件調停の成立を理由として、課税価格を9億6,080万円余、納付すべき税額を4億4,199万円余として、相続税法32条1号に基づく更正の請求(本件更正請求)をした。その際、Xは、P社株式の価額を前掲判決で認定された額と同額(1株当たり4,653円)としていた。
⑩ 平成26年11月12日、Yは、Xに対し、本件更正請求につき、P社株式等の価額に係る部分については、本件申告における株式の評価の誤りに係る是正を求めるもので、相続税法32条1号に基づく更正の請求によっては是正し得ないことなどを理由として、更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をした。また、Yは、X以外の本件相続人らに対する減額更正処分に伴い、平成26年11月12日、Xに対し、課税価格を49億410万円余、納付すべき税額を23億2,567万円余として、相続税法35条3項に基づく増額更正処分(本件更正処分)をした。本件更正処分等において、Yは、P社株式等の価額を、本件申告における価額と同額(P社株式については、1株当たり11,185円)としていた。
⑪ 平成28年7月29日、Xは、本件更正処分等におけるP社株式等の価額を不服とし、本件更正処分等の取消しを求めて、訴えを提起した。
  
(2)一審判決要旨(一部却下、認容)(納税者勝訴)(控訴)
① 本件のように、相続税の申告の後に個々の財産の価額を変更する更正処分がされた上、当該更正処分の取消しの訴えが当該申告をした相続人によって提起され、個々の財産の評価方法ないし価額が争点となり、判決がこの点について認定・判断をし、課税価格及び納付すべき税額につき当該更正処分における金額と異なる金額を認定して、当該更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではないのはもちろんであるが、かといって、当該価額を申告における価額と置き換えることも、当該価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではなく、根拠を欠くというべきである。
② 争点となった個々の財産の評価方法ないし価額に係る認定・判断並びにこれらを基礎として算定される課税価格及び相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断として、行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じているということができる上、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分に係る事件についても、同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格及び相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当であって、従前の更正処分について、争点となり、その評価方法ないし価額が判決によって変更されるに至った個々の財産については、課税庁において、同判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならないものというべきである。
 したがって、本件各株式のうち、P社株式の価額については、前掲判決による1株当たり4,653円として、相続税法32条1号及び35条3項の計算をするのが相当である。
③ 以上の各価額を前提に計算をすれば、本件相続に係るXの納付すべき相続税額は、本件更正処分は納付すべき税額が4億4689万円余を超える部分について違法な処分として取消しを免れない。

○行政事件訴訟法33条1項
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
  
(3)控訴審判決要旨(一部認容)(納税者勝訴)(上告受理申立て)
① 本件株式の評価方法及び価額に係る前掲判決の判断を理由に、相続税法32条1号に基づく更正の請求をすること及び同法35条3項による増額更正処分が違法であると主張してその取消を求めることはできない。しかし、本件においては、前掲判決の拘束力に基づき、本件更正処分等が違法となり、結果的に取消請求が認められることとなる。
② 行政処分を取り消す判決は、「その事件」について、当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束するとされる(行政事件訴訟法33条1項)。同項による拘束力は、取消判決の実効性を確保するために付与されたもので、行政庁に、処分又は裁決を違法とした判決の判断内容を尊重し、「その事件」について判決の趣旨に従って行動し、これと矛盾する処分等がある場合には、適切な措置をとるべきことを義務付ける効力であるから、訴訟における訴訟物に係る裁判所の判断について生じる既判力と異なり、主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断(理由中の判断)について生じるものと解される。前掲判決(に係る前掲更正処分)と本件更正処分等は、いずれも本件被相続人の遺産に係るXが納付すべき相続税の課税という同一の法律関係に係るものであるから、本件更正処分等は、前掲判決との関係で「その事件」に該当すると認めるのが相当である。
③ 前掲判決において、前掲更正処分が適法かどうかに係る主文の判断は、租税法規に従って客観的に算定した課税価格及び相続税額がいくらかによるが、これは適法要件に該当するかどうかの問題であり、この適法要件に該当するかどうかについての結論を導くのに必要な事実認定及び法律判断は、まずは税額の計算の基礎となったとなった遺産の価額についてされるものである。したがって、前掲判決の判断のうち、争点となった個々の財産の評価方法ないし価額に係る判断並びにこれらを基礎として算定される課税価格及び相続税額に係る判断に拘束力が生じ、課税庁は相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分の際の計算において、前掲判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならないものというべきである。
④ 前掲判決で認定された本件各株式の価額を前提に計算をすれば、本件通知処分については、納付すべき税額が4億4689万円余を超える部分について違法な処分となり、本件更正処分については、申告額である10億7095万円を超える部分について違法となるから、それぞれ上記の限度で取消しを免れない。

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東京都の相続税専門の税理士中島吉央
 現在、日本税務会計学会訴訟部門委員、東京税理士会会員講師を務めています。なお、今まで10冊以上の本を執筆しています。税理士さんの本でよく見かける「自費出版」ではなく、「商業出版」です。