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財産評価

総則6項の適用

 評価通達を利用した評価額は、実務的には便宜ではありますが、一種の基準価額又は標準価額を意味するものであって、ともすれば本来の「時価」である客観的交換価額から乖離することにもなります。そのため、評価通達6項(以下「総則6項」という。)では、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定め、評価通達上の評価額と客観的交換価額の乖離を補正するための補完的措置を設けています。このような評価通達上の評価構造は、評価通達の基準性を論じるに当たって、看過できない事柄です。
 なお、相続税法における財産の時価(価額)の解釈については、国税庁の取扱い通達に端を発していると言え、裁判例が当該取扱いの適法性を是認する形で定着してきていると言えます。この総則6項の適用に関する裁判例・裁決例については、後記で説明します。

総則6項の適用に関する裁判例・裁決例

 総則6項の規定の合理性を認め、当該規定に基づく課税処分の適法性を認めた裁判例として、東京高裁昭和56年1月28日判決(行裁集32巻1号106頁)、東京地裁平成4年3月11日判決(判時1416号73頁)、東京高裁平成5年1月26日判決(税資194号75頁)、最高裁平成5年10月28日第一小法廷判決(同199号670頁)、東京地裁平成5年2月16日判決(同194号375頁)、東京高裁平成5年12月21日判決(同199号1302頁)、大津地裁平成9年6月23日判決(同223号1046頁)、大阪高裁平成12年7月13日判決(同248号319頁)、最高裁平成14年10月29日第三小法廷判決(同252号順号9225)、東京地裁平成11年3月25日判決(同241号345頁)、大阪地裁平成12年5月12日判決(同247号607頁)、東京地裁平成16年3月2日判決(同254号順号9583)等があります。

 その中の東京高裁昭和56年1月28日判決は、この総則6項の規定を判決において初めて納税者に不利になるように適用したものといわれます。相続開始時において、所有権が留保されている相続財産である土地の評価は評価通達の基準によらない特別な事情があり、当該土地の売買に係る取引価額をもってすることが正当であるとして、次のとおり判示しています。

「相続税法22条は、相続財産の価格は特別に定める場合を除いて当該財産の取得時における時価による旨定めているのみで、同法は土地の時価に関する評価方法をなんら定めていないのである。そこで、国税庁において『相続税財産評価に関する基本通達』を定め、その評価基準に従つて各税務署が統一的に土地の評価をし、課税事務を行つていることは周知のとおりである。したがつて、右基準によらないことが正当として是認されうるような特別な事情がある場合は別として、原則として、右通達による基準に基づいて土地の評価を行うことが相続税の課税の公平を期する所以であると考えられる。」
「本件土地の評価については、前記取引価額をもつてすることが正当として是認しうる特別の事情があるというべきであり、したがつて、控訴人(税務署長)のこの点に関する主張は理由があり、これに反する被控訴人(納税者)らの主張は採用することができない。」


 また、東京地裁平成4年3月11日判決では、被相続人が死亡の直前に借入金により不動産を7億5,850万円で取得し、相続人らが相続開始直後に当該不動産を7億7,400円で他に売却した場合において、相続開始時における当該不動産の価額を通達に定められた路線価による1億3,170万円余ではなく、その取得価額自体によって評価してした相続税更正処分は適法であるとして、次のとおり判示しています。


「本件の場合のように、被相続人が相続開始直前に借り入れた資金で不動産を購入し、相続開始直後に右不動産が相続人によつてやはり当時の市場価格で他に売却され、その売却金によつて右借入金が返済されているため、相続の前後を通じて事柄の実質をみると当該不動産がいわば一種の商品のような形で一時的に相続人及び被相続人の所有に帰属することとなつたに過ぎないとも考えられるような場合についても、画一的に評価通達に基づいてその不動産の価額を評価すべきものとすると、他方で右のような取引の経過から客観的に明らかになつているその不動産の市場における現実の交換価格によつてその価額を評価した場合に比べて相続税の課税価格に著しい差を生じ、実質的な租税負担の公平という観点からして看過し難い事態を招来することとなる場合があるものというべきであり、そのような場合には、前記の評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情がある場合に該当するものとして、右相続不動産を右の市場における現実の交換価格によつて評価することが許されるとするのが相当である。そして、右認定のような事実関係からすれば、本件はまさにそのような場合に該当するものといわなければならない。この点に関し、原告ら(納税者)は、A(被相続人)による本件マンションの購入は、転売利益を図ることをも目的として行われた通常の経済取引行為であつて、ことさらに相続税の負担を免れることを企図してなされたものではないから、本件マンションを評価通達によらずに評価することが許されるような特別の事情は存在しないと主張する。しかしながら、前述したところからすれば、前記のような借入金による不動産の取得が転売利益を図ることをも目的として行われたからといつて、このことによつて右不動産を評価通達によらず評価することが許される特別の事情の存在が肯定されなくなるものとすべき根拠は乏しいものといわなければならない。」


 類似事例として、被相続人が死亡の直前に借入金により不動産を16億6,100万円で取得し、相続人らが相続開始直後に当該不動産を18億円で他に売却した場合において、相続開始時における当該不動産の時価を評価通達による評価額1億2,102万円余ではなく、客観的な市場価格16億6,100万円によるべきと判断した事例(東京地裁平成4年7月29日判決・行裁集43巻67号999頁、東京高裁平成5年3月15日判決・行裁集44巻3号213頁)があります。

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東京都の相続税専門の税理士中島吉央
 現在、日本税務会計学会訴訟部門委員、東京税理士会会員講師を務めています。なお、今まで10冊以上の本を執筆しています。税理士さんの本でよく見かける「自費出版」ではなく、「商業出版」です。